人形の顔は、彫刻をした私自身が言うのもおかしいが、とても美しい形をしている。市販のドールアイを使わず、透明レジンで眼球も私自身が作った。その目が動く筈はないのだが(そもそも球体ですらない)、その瞳は哀しみの色に満ち、テラテラと濡れて光っていた。
 頬には、私自身が描き込んだ、カーニヴァルの道化の様なタトゥー。普通の人の肌よりずっと白い、陶器ではなく化学合成樹脂の膚に、瞳や頬のマークは痛々しいまでにくっきりと鮮烈に見える。
 この女――既に私は人形である以前に、女だという意識に戻っていた。最初に感じた時と同じ様に。
「マリス、君は客をとる女だった。そうだね」
「それがドールの仕事だもの。当たり前だわ」
 なるほど。この女がかつて、いやもしかしたら遠い先なのか。とにかくここへ来る前に居た場所では、男を慰安する機械仕掛けの存在であったと。
「そこはどんなところだ」
「オーガンのこと?」
 組織――。言葉の意味など無いのかもしれない。
「マリスが、ドールであったところの事を聞いている」
「こことは違うわ」
 それはそうだろう。
 マリスは立ち上がり、物が散らかった部屋を見回した。
「でも、似ているかもしれない」
「どこが?」
「あなたが帰ってくるまで、あたしは、機能していないここの子達とずっと一緒にいた」

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