彼女が示しているのは、私がコレクションして部屋に置いているファッション・ドール達の事だ。
「みんな目を覚まして欲しいのに、誰にもあたしの声は聞こえていない」
 部屋の人形が散乱していた理由がそれか。
 残念ながら、私の人形達はマリスの様には喋らないし、マリスの様に歩き回る事は出来ない。
「お客様がいなくなって、ずいぶん長い時間が経った……」
 マリスは、床に倒れている少女の人形を抱きしめた。
 ソフトビニール製の人形は、にこやかに笑った顔をしているが、その目はマリスを見てはいない。
「あたしはひとりぼっちで、毎日お散歩をしていたの。でも、時々ドリスやヘザーが起きてきて――」
「ちょっと待ってくれ。ドリスとかヘザーっていうのは、その――、君と同じ、ドールなのか」
「ええ、勿論。その時、オーガンで動いていられるのは、あたしたちドールと、オーガンを整備するマシナリー、あと……、管理者のジョー――」
 じっとマリスは考え込んでいる。
 彼女の“メモリ”も混濁しているらしい。
「他のドールは――、やはり君の様な姿をしているのか」
「タイプはみんな違うわ。だってあたしたちはみんな一人づつ作られたんだもの」
 量産されたものではない。それはそうだ。ここまで精緻に人を模す姿をした者が、同じ顔、同じ姿で何人もいられたらさぞや居心地が悪いに決まっている。
「ドリスは、黒くてとっても綺麗な長い髪をしている」

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