牧野留姫

私にデジモン三作目の企画が来た時、レギュラーを三人の男女にする。内一人は帰国子女とする――という事は、関プロデューサーによって決められていました。
男の子二人と女の子。ストレートな構成ではありますが、このデジモン・シリーズは、バンダイのスポンサーによる、バンダイの玩具を原案とするシリーズ。
そして、このシリーズに限った事ではなく、女の子のキャラクターのアイテムは、(男児玩具としては)売れないというマーケティング結果がありました。
だったら、誰よりも“強い女の子”にして、強いデジモンをパートナーにすればいいのではないか、と提案をしました。
極めて初期のイメージ、私が説明していたのは、映画「マトリックス」のヒロイン、トリニティでした。
中鶴勝祥氏の最初期の留姫のデザインは、このイメージを色濃く出していました。
ややして、全く違う、つまり皆さんが良く御存知の、“パイナップル頭”の留姫の絵が届きました。
よし、いける! と私は喜んでいました。これまでに無いタイプのヒロインが描けるという喜びを感じて。

強いからと言って、粗暴な言葉遣いはさせず、大人びたところと、極めて子どもっぽいところの両面が出せる様に、ダイアローグは留意して書いていました。
留姫の声は、透明感のある硬質な人がいい、と私は主張して、『ニア・アンダー・セブン』という作品で、私と同名のキャラクターを演じられていて印象的な演技をされていた、折笠富美子さんを推薦しました。
オーディションの結果、やはり折笠さんが最もイメージに近かったので、スムーズに決定されました。

留姫の家庭に父親がいない――という設定は、特に大きな狙いがあってした事ではありません。近年の都心の小学校をリサーチすると、そういった家庭が非常に多いのです。だから、それが彼女の、やや屈折したキャラクターの根拠にはしていません。

2002年春の映画「暴走デジモン特急」は、私は全く無関与で、TVシリーズとの時制的な矛盾は、割り切って捉えています。
しかし、監督の中村哲治さんはTVシリーズのシリーズ・ディレクター補(実質は第三クール目のみですが)であり、脚本のまさきひろさんはTVシリーズのレギュラー・ライターであり、シリーズのメンタルな部分は非常に留意して、映画を完成されています。留姫の家庭について、TVでは踏み込まないでいたところを、敢えて正面切って描いてくれた事については、私個人としてはとても有り難かったと思っています。