インプモン

ギルモンの項で触れた事――、テイマーズのメイン・デジモン(成長期)として、デジモンの企画をリードしてきたウィズの方から、最初に提示されたのは、実はインプモンでした。
一目見てよく判る、悪ガキ的なキャラクターで、確かにアドベンチャーまでとはかなり趣の異なるデザインです。
しかし私は、前に書いた通り、主人公デジモンは極力イノセントな状態からストーリーを始めたかったので、疑問があると意見を述べ、そして次に提示されたのがギルモンだったのです。

インプモンは、ウィズの企画原案では、中盤までの言わば敵ボス的な存在でした。放送直後に発売されたワンダー・スワンのゲーム「デジモン・メドレー」が、その企画原案に則った展開となっています(四聖獣の一、シェンウーモンがラスボスとして登場します)。
それほどまでに、ストーリーに強く関わるキャラクターである事が予め規定されていた訳ですが、私は最初から強い敵にしても、このキャラクターの魅力は活かせないのではないかと考えました。
初期のメイン・ヴィジュアル(ポスターなど)で、インプモンはあたかも、悪魔の息子の様に強さを感じさせる存在で描かれていますが、そうではない形にしたのは、御覧戴いた通りです。

インプモンは、強くなりたいデジモン。デジモンである限りそれは、自然な欲求です。しかし彼はまだ考えも幼く、またパートナーとの関係に恵まれなかった。そのインプモンが求める強さは、非常に危ういものとなる筈です。
ベルゼブモンという、極めて強い究極体に進化する為に、彼は言わば「悪魔の契約」を交わす。
私が考えていた、シリーズ中盤までのインプモンのストーリーはこういったものでした。

インプモンの初登場回は、吉村元希さんが担当され、ピノッキモンなど、悪役を活写されてきた経験を活かされて、あの饒舌な、しかし憎めない口調をインプモンに与えて、インプモンはキャラクターとして歩き出します。
その後の、特に幼いパートナー姉弟との関係に始まり、デーヴァとの相克、進化、挫折、そして樹莉を助けようとするブラスト・モードまでは、一貫して前川淳さんが脚本を担当されています。演出も、全てではありませんが、芝田浩樹さんとのコンビで生まれた作品群が多い。
当初は偶然に、インプモンをフィーチャーする回が重なったのですが、中盤以降は前川さんも私も意識しており、脚本ローテーションとシリーズ構成を調整して、前川さんにインプモンを書いて貰う様にしていました。

高橋広樹さんは、後にベルゼブモンになる事を想定して、始めから男性の声が良いという事でキャスティングされました。期待通り、インプモンとベルゼブモン、その両方を魅力ある演技で演じてくれました。