ブースの中には俳優がたった二人。マイクの前で、間合いの多い芝居を、台本の意図通りに汲んで演技してくれている。
 徹底的に視覚メディアに浸りながら育った私は、かつて隆盛を誇ったラジオ・ドラマ、そして今はCDを媒体としているオーディオ・ドラマというものに関心を持てないでいた。オファーがあってもずっと断ってきたのだが、この仕事を引き受けたのは、作品自体のテイストが私の嗜好に合っていた事と、常に何か新しい事を仕掛けないと気が済まない私が、アニメーション脚本の仕事ばかり続いていた事に少々疲れを感じ、目新しい事をやってみたいという気分に合致したからだった。
 数年前にテレビで放送された、あるホラーのアニメ・シリーズ。私は一本だけ招かれて書いたに過ぎない。その作品の番外篇と言える、CDドラマを書かないかと誘ってくれたのは、その監督自身だった。
 映像の様にカットバック、シーン展開が出来ない、聴覚のみのドラマ。私は4話のオムニバスで、それぞれ登場人物をヒロインともう一人だけ、場面転換はしない一幕構成という枷を自らに嵌めた。
 当然ながら、この枷は自分の首を絞めるものだが、その厳しい制約の中でこそ描ける物語がある筈だ。それこそが、今、私が書かないといけないものだと考えていた。そして、それは何とか書き上げる事が出来たと思う。
 俳優達は、普段の同種の仕事とはやや趣が異なる台本に、はじめは戸惑っていた様だが、アニメーションの画面に合わせる必要がなく、自分自身の間合いで出来る芝居はやはり楽しいらしい。録音監督の的確な指示があって、想定以上に巧くいったな、と厚いガラスの外側で聞いていた私は安堵していた。

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TEXT and Digital Imaging:小中千昭
Illustration: 西岡 忍
Cell Coloring: 金丸ゆう子

AX誌2000年連載
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