人形を巡る怪談噺というのは存外多いもので、伝承民話に始まり、学校怪談、都市伝説などいかなる種類の怪談の中にも登場する。
 最も有名なものは、「お菊人形」という、経時と共に黒髪が伸び、表情が変化したという話であろう。それが事実かどうかはさておき、お菊人形の伝説は人々の無意識の中に確固として生き続けている。
 元来は愛でる対象として生まれた人形が、「怖いもの」であるという全く正反対の属性を普遍的に有しているのは、実に奇妙な事だと言わざるを得ない。
 人でない、人の形をしたもの――。
 そう言えば、かの江戸川乱歩は生き人形に耽溺し破滅した男の物語に、斯様な表題を与えていた。
「人でなしの恋」と。

 私の人形造りの作業は、順調に進んだ訳ではなかった。仕事で無理を続けたのが祟り、神経症的な症状が出るようになって、仕事は遅らせがちになっていた。もともと躯が強い方ではないのだが、躯の不調を意識し続ける日々がこれだけ長く続いたのは初めての事であった。
 そんな中で、人形造りが息抜きの様なものであったかと言えば、そうではない。
 仕事の合間にひたすら粘土を盛っては削り盛っては削りと、亀の歩みの如き作業を続けていたのは、既にそれが私にとって、成し遂げねばならぬ責務となっていたからだ。

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TEXT and Digital Imaging:小中千昭
Illustration: 西岡 忍
Cell Coloring: 金丸ゆう子

AX誌2000年連載
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